6体の巨人が遭遇したとき、驚きが大きかったのは当然のごとく大地たち魔動戦士の方だった。
 「ロ、ロボットぉ!?」
 「何モンだコイツら!?」
 「敵意は感じませんが…」
 『驚いたな…あれは、魔神(マシン)だ』
 3人の心を落ち着かせるように、グランゾートの声が響く。
 「魔神?」
 『うむ。神々すら存在しない、古く遠き過去…神々の、そして人間の祖となった存在が[魔]を打ち
払う為に己の身を引き裂いた。その時に誕生した[矛盾]』
 「…矛盾」
 『神聖(カミ)の意思と、魔の行為を兼ね備えるモノ。故に魔神と呼ばれる』
 「前に本で読んだことがあるぜ。魔神は、神々と共に別の世界へ移り住んだんじゃなかったか?」
 『ラビルーナに伝わる創世神話の一篇だな。同時に事実でもあるが』
 「どうしてここに来たんだろう…」
 大地の呟きに、ガスが明るく答えを返す。
 「敵でなければ味方ですよ!」
 「アホ!敵の敵が味方とか、そんな都合のいい話が早々あるか!」
 「でも、私達に好意を感じます。ヘルメタルも彼らを敵と認識している様子ですから」
 6対20以上。数字で見れば圧倒的にこちらが不利だったが、最初の状況に比べれば遥かにマシだった。
 会話しながらでも魔動王の動きは止まりはしない。アクアビートは水の鎖を自在に操ってヘルメタルを次々と打ち据え、ウィンザートは体術だけで装甲を打ち貫いていく、そして3体の魔神は魔動王よりも小柄だったが力は申し分ない。
 そんな中、大地は新手に気付いてそちらに精神を集中させることを決めた。
 「力の矢よ、眼前の敵を射て エネルギーボルト!」
 伸ばされた右手にパリパリと音を立てて光が集い、無数の矢となって解き放たれる。
 そして、いつの間にかグランゾートの隣に位置していた青い胴体と白い手足を持った魔神が
タイミングを合わせたかのように両肩の龍の紋章から光を生み出すと、稲妻の塊にして両手から
撃つ。
 2体の同時攻撃の威力は絶大だった。半数のヘルメタルが吹き飛び、残りも速度が格段に落ちたのを確認して素早く印を結び呪文を唱える。
 「ジーク・ガイ・フリーズ 出でよ、エルディカイザー!
 地面が割れ、一本の大剣が迫り上がってくるとその柄に手をかけて一息に引き抜く。グランゾートの中で、手のひらから現れた光の剣を握る大地の法衣の裾が翻った。

 「あれが[地の神の剣]?」
 『そうだ。一撃殲滅の力を司る者、炎の精霊王が携えし武器』
 「まるで剣が炎に包まれてるみたいだね…」
 『あの炎のようなものは、魔動戦士の持つ魔動力だな。私もあれほど強大なものは初めて見るぞ』
 その言葉に「へぇ」と感嘆の声を漏らし、それでもワタルは不敵に笑う。
 「こっちも負けないよね!龍神丸!!」
 『おう!』
 ワタルが立つのは、金色の龍の頭上。その角を握る両手に力を込めれば、龍神丸との一体感が更に強まっていく。
 「行くよっ!」
 龍神丸が背負っていた剣を手にして走りだすのと、グランゾートが駆け出すのがほぼ同時。
ヘルメタルの群れに飛び込んで次々と切り伏せていくなか、驚くほど呼吸が合わせやすいことで互いに妙な既視感を覚えながらもヘルメタルが全て倒れるまで気は抜かず、そしてそれほど長い時間は必要なかった。
 「もう新手は来ないみたいだけど…これからが本題、かぁ」
 『魔動戦士との話し合いだな…』
 「頑張ってくる。良い知らせを待ってて」
 『頼んだぞ、ワタル』
 3体ずつ、向かい合うように立つ巨人達からそれぞれの乗り手が降りる。仲間同士で元気なことを示すように笑顔を向け合い、改めて向こうの顔を見て…大声が上がった。
 「だ、大地ぃ!?」
 「ワタルぅ!?」
 クラスメートの姿に絶句する2人の顔をきょろきょろと見比べ、ガスがのんきに口を開く。
 「大地君のお知り合いですか?奇遇ですね!」
 「そーゆー問題じゃねぇだろ!」
 ラビのツッコミが森に響いた。

 「世界って意外と狭いもんなんだねぇ〜」
 「全くだ」
 「一週間前まで、同じ教室で勉強してた相手を探して月に来るとか…灯台下暗しにも程があるよ」
 「つーか、ワタルが別の世界で[救世主]とは……ラビルーナでもう一生分驚いたと思ってたけど、
人生まだまだ甘かった…」
 「いや、大地みたいな理数系に魔法が使えるって事実の方が意外だと僕は思うよ」
 隠れ家に戻って、互いの長い話を語り合ったところで、身近なところにいた非日常に接した存在にしみじみとワタルが嘆息する。
 「暇さえあったら月に住んでるって友達に手紙書いてるんだな、と思ってたら…」
 「初めて月に来たときからそんなんだぜ、コイツ。封筒と便箋何枚持ってんだ、っつーくらいに」
 そう言って、ラビはお茶請けの菓子を口に放り込んだ。
 「まぁ、問題なのは…なんでココに魔界の者の気配がするかだな」
 「連中が来た方向、なんかあったりするのか?」
 「えーっと」
 ワタルがUMPCのキーボードとタッチパッドを操作して、この辺一帯の地図を確認する。
 「僕の持ってる地図には、なんにも載ってないなぁ」
 「ちょい待ち」
 大地が自分のUMPCを取り出して何かのデータを読み込ませ始めると、自然と全員の頭が周りに集まった。
 「なんだ?この穴ボコだらけの地図」
 「50年以上前の月面のデータだけど、今の地図と重ねてみようと思って」
 「お前…どっから探してくるんだよ。こんな骨董品みたいなデータ」
 「検索かけたら、結構出てくるけどなぁ」
 2つの地図を重ね、カタカタと規則正しい音を立ててキーを叩きながら画像処理を行う。
 「[病の沼]と[恐怖の湖]?」
 「そのものズバリって感じのネーミングだな」
 「そう言えば、おじい様に聞いたことがあります。月面に地球からの移民が来たばかりの頃、人々は地図を作るためにあちこちを歩き回っていて、病の沼と恐怖の湖にも向かったそうです。でも、
不吉なことや事故が立て続けに起こったので、結局詳しく調べることは出来なかったとか」
 今まで、腹ごしらえのために黙っておにぎりを頬張っていたガスが移民の知識を教える。
 「要するに、いわく付きの場所って訳だ」
 「神部界へ行くより先に、やる事が出来ちゃったみたいだね」
 「放っとくと、何が起こるか分かんないしな」
 「月は全ての魔力の源…多分、精霊達の力が弱まってるのと関係あるんだと思う」
 「見過ごせません!」
 やれやれ、とラビは肩をすくめて見せた。
 「お人よし集団だなぁ、お前ら」
 「んなこと言っても、一緒に来るんだろ?」
 大地が笑いながらそう言えば、ラビは真っ赤になってそっぽを向く。どうやら図星らしい。
 「今日は準備に使って、明日の朝一で出発。ってとこかな?」
 「そうだな、少しでもどんな所か調べておきたいし」
 「では、私は耳長族の書物に地図がないか調べてみます」
 「俺と虎王はなんか出来る事あるか?」
 「先に言っておくが、俺様は現生界の文字は読めんぞ」
 どこか胸を張って聞こえる虎王の宣言に、ラビがツッコミを入れるよりも早くワタルが案を出す。
 「2人は御飯作って」
 「「おう」」