空気が変わったのは突然だった。それまでゆったりとしていた森の空気に、いきなり割り込んできた敵意のようなもの。
 「そんなに強くないけど…邪動力!?」
 「え?なんでだ!?」
 「向こうの方から感じます!」
 ガスの示したのはまだ未開発の地域の方角で、空に浮かぶ20個近い黒い粒が近づいてくるのが判別できてラビが「マジかよ」と声を漏らした。
 「ヘルメタル…どうしてあんな物が?」
 「それは確かに気になるけど、攻撃してくる気みたいだから移動しないと!」
  大地の言葉通り、下草が生えていたり木々の間の狭い空間では魔動王を呼ぶことも叶わない。
 「泉の方なら、確か広くなってたよな!?」
 「その分だけ見つかりやすいけど、ここで相手するのは無理だ!」
 「大地くんは先に行ってください!広場は泉より少しですが離れてますから!」
 「オッケー!」
 脇に抱えていたジェットボードに飛び乗り、一気に速度を出す。泉の先の広場で一時停止して、
背負っていたカバンから銃に似た機械を取り出す。
 大地が魔法陣の描かれたプレートをセットして撃つのと、ガスが空に向かって弓を放つのと、ラビが軸に鞭を巻きつけた独楽を投げるのがほぼ同時。
 地上と空中と水面に3つの魔法陣が描き出され、3人はそれぞれ[力ある言葉]を唇に昇らせた。

「「「ドーマ・キサ・ラムーン 光出でよ!汝…」」」
「グランゾート!」
「ウインザート!」
「アクアビート!」

 詠唱に応え、3つの魔法陣から巨大な神顔が出現する。精霊王の器となる神像、魔動王。

 彼らの降臨に、精霊の声を聞く勾玉は反応を見せた。
 「精霊王が降りた、って聞こえたけど……」
 「さっきから敵意みたいなのを感じるから、そいつらと戦うつもりなのかもな」
 「問題は、俺らはどうするか。か」
 ワタルと海火子が眉を寄せると、虎王は簡単に決断を下す。
 「向こうは俺様達も狙ってるみたいだから、戦えばいいだろ」
 「………お前、何も考えてないだろう」
 「精霊王に敵だと認識されたらどうするのさ…」
 「でも、魔界の気配が混ざってるぞ?」
 「え」
 「へ」
 唖然とする2人に、虎王が人差し指で頬をぽりぽりとやりながら続きを口にする。
 「ブリキントンとか、ゴーキントン程度の下っ端だと思うが、とりあえずその辺りのが量産型魔神に
乗ってるような感じだ。それなりに数は多いみたいだけどな」
 聞き終えて、ワタルはガックリと肩を落とした。
 「剣より先に魔神が必要とか…なんなの、今回の事件」
 「向こうから来るものは仕方ない。あきらめろ!」
 「ま、気合入れて行こうぜ」
 ポンポンとワタルの肩を元気づけるように叩き、虎王と海火子は苦笑する。
 空から轟音が聞き取れるほど近づいてきたので、3人は頭を切り替えリストバンドを裏返すと
勾玉を表に出した。
 ワタルは剣を抜くと天に掲げ、残る2人は右手を掲げて叫ぶ。
 「龍神丸ーっ!」
 「来い!邪虎丸!!」
 「頼むぜ、夏鬼丸!」
 勾玉から放たれた光が天空に[門]を創り出す。それは決して大きくなく、また長く保たれる物でも
ないが彼らの元へ心強い味方を呼ぶには十分だった。