[病の沼]と[恐怖の湖]に向かって歩き始めて3日、目的地周辺までたどり着いた6人が目にしたのは砦のような建物と、その側に駐機しているヘルメタルだった。 「意外と厳重…って言うか、大掛かりだな」 「建物にも年季入ってるみたいだし、ひょっとして邪動族の月面基地かなんかじゃねぇのか?」 大地とラビが様子を伺っている間に、ワタル達は勾玉の反応に難しい顔をする。 「神部界への門の気配…するよね?」 「する…な」 「それと、ピリピリする気配もあるぜ」 「このピリピリするのは邪動力です。私には、邪動力が流れ出している様に感じられますが…」 「…もしかして、神部界に流し込んでるとか?」 口に出してみれば、その言葉に真実味がより増したように思えた。 「どっちにしろ、ブッ壊すしかないな。このままにして置いていい物じゃない」 「ここに居ては内部の状況も分かりませんし、突入する事が優先かと思います」 雷龍剣を抜いて立ち上がる虎王に、ガスが続く。 「んー…大地、お前ならここからでも扉壊せるよな?」 「何とかなるかも、って所だけど」 「それなら大地は武器とか持ってないし、僕達の後から来て」 「オッケー」 じりじりと接近していた岩陰から5人が飛び出して走り出す、砦の上方から射掛けられて来た矢はラビが鞭を振るって叩き落した。 「火炎の化身よ、我が声を聴き、我に従え」 ジェットボードに片足を乗せ、瞳を閉じて印を組むと静かに呪文を唱えると、パキパキと音を立てて地面にひびが入り始める。 「精霊召喚(サモン・エレメンタル)」 ゴッ、と音を立てて空間が燃え上がり、2体の炎の精霊・サラマンダーが地面の割れ目から飛び 出してきた。 「行けぇっ!!」 飛び立ったサラマンダーは、ワタル達が砦に到達するのとほぼ同時に頑強そうな扉を破壊する。 内部に突入すれば、ゴーキントンを更にごつくしたような緑の鎧の兵士がわらわらと現れた。 『メッキントン!奴らを砦の奥に進ませるな!!』 「メッキ…ねぇ」 「名前のセンスが悪いぜ」 誰もが一瞬呆れたような顔を見せるが、油断大敵と思い直して各々武器を構える。 「あ、そうだ。大地これ使って!」 「お!?」 ワタルが投げて寄越したフリスビー状のアイテムに大地が軽くうろたえるのを見て、言葉を続ける。 「そんなに威力ないけど、いちおー武器!大地なら多分使えるよ!」 「へー、なんて名前?」 「フリフリ!」 「……お前の名前のセンス、ホント独特だよな…ま、いいや。借りるぜ!」 戦闘の火蓋が切って落とされたが、予想通りメッキントンの数は多くても手こずるほどの強さでは なく順調に6人は砦の地下にたどり着いた。 「魔法陣か…この形は転送用のやつだ」 「もう一階下にあるみたいだけど、魔界の気配は下からするね」 「積層魔法陣か。下で魔力を引き出して、上にあるこの魔法陣でその魔力を転送してるわけだな」 「先に下を潰すぞ!」 地下2階、そこには地下1階とは異なる魔法陣が描かれ、中心に漆黒の宝石が浮かんでいた。 宝石からは禍々しいオーラが溢れ、天井に吸い込まれていくのが見て取れる。 「あの魔法陣に足を踏み込むのは、生身じゃ無理だな…」 「入れないなら、魔法で狙い打てばいいんだよ!」 ラビがそう言い切るのと、彼の足元から水が吹き上がるのがほぼ同時。 「水よ、我が武器となれ チェーン・ブレイカー!」 「風よ、霧よ、敵を切り裂け クリップル・リング!」 「力の矢よ、眼前の敵を射て エネルギーボルト!」 絶妙のタイミングで3人が魔法を放つ。3方向から一斉に襲い掛かるそれに対し、宝石はオーラを残してその場から消え去った。 「き、消えた!?」 「上だっ!」 海火子の鋭い声に視線を上げれば、天井に吸い込まれていく宝石が見える。命中こそしなかったものの、大地達の魔法は魔法陣を完全に破壊しており、魔界の力が月に流れ出すことはもう 無さそうだ。 砦が崩壊を始めたらしく、天井が崩れてきたのを回避しつつ上に上がれば、地上への階段が半ば瓦礫に埋もれてしまっているのが見える。 「チッ、オレ達を生き埋めにしようって腹か!」 「転送魔法陣の方は、辛うじて機能してるみたいですよ!」 「…一か八か、これに飛び込むしかないって?」 「死にたくないなら、それしかないんじゃない?」 「神部界に繋がってるのは確かっぽいし、行くしかないよ」 「それじゃ、行くぞっ!」 バッと虎王が先頭きって魔法陣に飛び込むと、淡い光を放ち始めたのが分かった。残る5人も次々に光の中に飛び込み、魔法陣の描いてある階が崩れ落ちて砦そのものが瓦礫の山となったとき、 後には動く物は何も残っていなかった。
|