真夏の青い空の下、木陰で3人の少年が地面に座り込んでいた。 正確には、そのうち2人は手を動かして何やら作業をし、最後の1人は寝転がって昼寝を決め込んでいる様子だったが。 「そっちどう?」 「ま、こんなもんだと思うぜ」 焦げ茶色の髪の少年が覗き込んだ先、赤い髪の少年の手元には3つのリストバンドにそれぞれ縫い付けられた3つの勾玉。 「いい感じだね。これなら邪魔にならなさそうだし、大して目立たないよ」 「ワタル、海火子、出来たのか?」 寝転がっていた少年がひょいっと身体を起こして、2人の間に顔を突っ込む。 「今まで寝てたやつが何言ってやがる」 「まぁまぁ、虎王に縫い物が出来る訳ないしさ…細かい作業苦手なんだし」 「ほっとけ!」 虎王本人は、縫い物が出来ないことを否定するつもりもないらしい。 「しかし、現世界では武器を持って歩けないとは思わなかったぞ」 「基本的に必要ないからね。身を守る術がないって言うのは本当だけど、危険も少ないから」 「危険の少ない所に危険が迫ってる、ってのは皮肉だな」 3人とも、リストバンドを手首に着けて具合を確かめる。そして周囲にほかの人影がないことを慎重に確認してから、それぞれ目を閉じて精神を軽く集中させた。 ワタルの手の中に、一振りの剣が出現する。独特の優美な曲線を描く黄金色の刀身を持つそれは、かなりの長剣ではあったが彼にとってはそれも含めて慣れたもので。 虎王の手には、白銀の刃を持つ剣。真っ直ぐなラインが彼の性格を移しとっているかのようだった。 対して、海火子はまず手にした銛をヒュン、と音を立てて回転させることで様子を確かめた後、地面に置くと続けて剣を出現させる。 「特に問題はなさそうだね」 「創界山で作った物に問題があってたまるか」 「ま、これで武器の持ち歩きに問題はなさそうだ」 リストバンドに縫い付けた勾玉には、いくつかのアイテムを収納する力がある。此方側では武器を持ち歩けない事を考慮して用意したものだ。 他にも特別な力があるが、下手に目立たせる訳にもいかないのでこうして身につけることにしたのである。 「地図とかの用意は出来たし、最低限必要そうなものも用意したけど…」 武器を収め、ワタルは地面に置いていたUMPCを手にとってキーボードに指を滑らせた。 「オババの占いの結果を聞いた時は、オレ様も驚いたぞ!」 「向こうで精霊の力が弱まってて危ないから、精霊王と意志を通わせられる人間に力を借りる。ってのはいい解決法だったが…」 「その人達の居場所が、月っていうのがねぇ……」 やや呆れたような顔でワタルは空を見上げる、視線の先には青空に白く浮かぶ月。
行ったことのない場所、此方の世界での初めての旅。不安がないとは言えないけれど、仲間と一緒なら大丈夫だろうと3人共口に出さずに思っていた。
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